【活動報告】奄美群島日本復帰70周年地域シンポジウム 第2回「沖永良部の近現代 ―沖永良部の現在―」を開催しました(12/8~9)

法文学部附属「鹿児島の近現代」教育研究センターは,本学国際島嶼教育研究センター、知名町、和泊町と共催で令和5年12月8日と9日の2日間にわたり、地域シンポジウムを開催いたしました。2日間の参加者は延べ80名以上でした。

皆村武一鹿児島大学名誉教授寄贈図書お披露目会

12月8日には和泊会場(和泊町役場結いホール)にて、皆村武一鹿児島大学名誉教授による和泊町への寄贈図書のお披露目会が開催されました。開会と共にこれまでの図書寄贈に向けて鹿児島大学としてお手伝いさせていただくことになった経緯について法文学部澤田成章准教授よりご説明しました。続き、和泊町代表者として竹下安秀教育長から感謝が述べられました。その後、皆村名誉教授より高校卒業のタイミングで島を出てから今日に至る研究の足あとや、図書寄贈にあたっての故郷に対する想いについてお話しいただきました。皆村名誉教授の想いを受け、鹿児島大学として寄贈図書の利活用をどのように促進していくかについて澤田准教授から改めてご説明し、最後は前登志朗町長に閉会挨拶をいただきました。

皆村武一鹿児島大学名誉教授の講演

12月9日には知名会場(フローラル館)にて、トークセッションを中心としたシンポジウムが開催されました。本年3月のシンポジウムに続く第2回として、沖永良部の現在という視点から、沖永良部に住む様々な立場の方のお話をうかがうことを主たるテーマとしております。沖永良部の過去から未来をつなぐ現在の立ち位置について、第Ⅰ部 未来の沖永良部に向けて、第Ⅱ部 沖永良部に暮らすひとの現在、第Ⅲ部 特別座談会「沖永良部と文学」の3部構成で議論しました。総合司会は弊センターの伴野文亮特任准教授が担当致しました。

会場の様子

開会あいさつでは、Zoomを用いて丹羽謙治センター長から、沖永良部の産業、文化、ひとの取り組みを明らかにし、未来につなげていく活動への期待についてお話しいただきました。
第Ⅰ部では、はじめに和泊町役場企画課課長補佐兼脱炭素推進室長の永野敏樹氏より、知名町と和泊町が一体となって現在進めているゼロカーボンアイランド沖永良部の取り組み紹介がありました。続いて一般社団法人シマスキのメンバーから、島の若手の主体的な取り組みについて紹介いただきました。株式会社Novelio代表(鹿児島大学法文学部4年生)の宮田陸さんは在学中に自身が設立した会社のビジネスモデルについて紹介し、沖永良部には仕事がないのではなく、隠れた宝を効果的に活用する仕組みが整っていないだけではないかと投げかけました。

永野敏樹氏
シマスキのメンバー
宮田陸さん

第Ⅱ部は、沖永良部に暮らす人の現在に焦点をあて、「ずっと島にいる人たち」「島外から来た人たち」「国外から来た人たち」の3つの視点から、それぞれ島で暮らすこと、島ではたらくことについての議論を行いました。
「ずっと島にいる人たち」としては、一般社団法人シマスキのメンバーに登壇いただきました。沖永良部で農業に携わる事業者は協力してブランドを育てる意識が強く、一体感を強みとして磨いていくことの重要性や、人手不足解消に向けた決意などについての議論が盛り上がりました。

「島外から来た人たち」としては、えらぶ島づくり事業協同組合のメンバーに登壇いただきました。Iターンで来島して働く坪井光史さんや高橋恵美さんから「東京(都会)との生活水準の違いは感じない」「島で若手に割り振られる仕事が“作業”となっており、やりがいや自己成長を感じ辛い」といった、島外での社会人経験があるからこその視点が際立ちました。

「国外から来た人たち」としては、海外経験が長くIターン者として在沖永良部の外国人と島の人をつなぐ活動を展開しているネルソン水嶋氏と、介護施設で働きながら日本への帰化を目指す中国人の江氏のお二人に登壇いただきました。沖永良部の外国人労働力の問題について研究する西村副センター長からは、鹿児島県のなかでも沖永良部は外国人の受け入れ人数が多く、またその歴史も長いこと。そのため多文化共生のトップランナーとして学ぶ点が多いことなどが説明されました。江氏からは、介護の資格を取得した後も沖永良部に残りたいというご自身の目標や、「島の人たちには島に来たばかりの外国人に対してもっと親身になってあげて欲しい」といった希望についてお話しいただきました。

宮田陸さんとシマスキの方々
日髙優介特任助教と坪井光史さんと高橋恵美さん
ネルソン水嶋氏と江龍さん

第Ⅲ部は、特別座談会「沖永良部と文学」と題し、在野の研究者として長く沖永良部の経済・社会・文化の研究を続けてこられた知名町役場の前利潔氏と、鈴木優作特任助教による一色次郎に関するトークセッションを実施しました。
前利潔氏による冒頭のプレゼンテーションでは、一色次郎が生まれた時代の沖永良部がどのような経済・社会であったか、一色次郎に対して県内の新聞各紙はどのように取り上げてきたか、作品ごとの一色次郎の沖永良部への想いの変遷等について共有いただきました。
鈴木特任助教との対談の中では、一色文学の魅力や今後の沖永良部の文学に対する期待に光が当てられました。対談を通じて、一色次郎自身が沖永良部島への想いと父への想いの中で葛藤しており、それが一色文学の魅力を形成している点が確認されました。また、「東京空襲記」や「愛の風土と人生~古里日記~」といった作品では記録にこだわった側面もみることができ、記録という面で活躍した作家としての側面も一色次郎の魅力といえそうです。

鈴木優作特任助教と前利潔さん

プログラムの最後は、鹿児島大学法文学部松田忠大学部長より、総括と閉会の挨拶がありました。脱炭素の先進的な取り組みや若者の主体的な活動など、沖永良部は先進的な離島モデルを発信していくポテンシャルがあることが確認できたと、本シンポジウムの成果を総括するとともに、今後も末永く鹿児島大学の教育研究活動へのご理解とご協力をいただきたいと、沖永良部の方々の支援を呼びかけました。

松田忠大学部長

なお、当日の会場には澤田成章ゼミ、鹿児島大学国際島嶼教育研究センター、法文学部附属「鹿児島の近現代」教育研究センターによるポスターセッションが開催され、参加された皆様は興味深くご覧になっていました。

ポスターセッション

文責:澤田成章(鹿児島大学法文学部准教授)


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