令和6年度採択地域マネジメント教育研究プロジェクト一覧

令和6年度において進行中の地域マネジメント教育研究プロジェクトを、4つの柱ごとにご紹介します。

1.地域的特性を踏まえた新たな地域の文化的創生に関する取組み
・奄美民謡の継承のネットワークに関する調査及び歴史的録音のデジタル化
・奄美大島大和村における地域資源果樹の利用に関する学際的研究
・地域と現代文化との関わりを発掘・検証しその可能性を探究するプロジェクト
2.本学および地域が所蔵する歴史的・文化的資源の地域への還元
・旧城下町鹿児島「博学連携」プロジェクト2024
・沖永良部における島妻慣行と女子教育の伝統:奄美群島及び沖縄離島との比較研究
・鹿屋における〈水の記憶〉を未来に―水資源との豊かな共生を目指して―
3.地域的課題把握とその解決に向けた取組み
・奄美群島の経済・社会課題解決に向けた歴史資料利活用プロジェクト
・鹿児島の地域づくりに公民館が果たした役割の歴史的検証と現代への継承・発展ー鹿児島県日置市を事例にー
・与論島からの「移民」についてのオーラルヒストリー研究:森崎和江『与論を出た民の歴史』の「その後」
・シマ社会の新たな知の循環に向けた奄美の集合的記憶形成に資する字誌の利活用
4.教育・地域マネジメント人材育成プログラムの開発・推進
・地域に生きる、歴史を生きる:高大生の歴史実践と協働型価値創造
・「種子島研究」の探索とアーカイブ化による教材および教育方法の開発
・島嶼の伝統野菜の維持・保存と教育への活用~伝統野菜と郷土の食文化を復活させる食育プログラムを通して~

1.地域的特性を踏まえた新たな地域の文化的創生に関する取組み

①奄美民謡の継承のネットワークに関する調査及び歴史的録音のデジタル化

担当教員
梁川英俊(法文学系)

プロジェクトの概要
本プロジェクトの概要は以下の2点にまとめられる。①奄美民謡の継承は、今日では群島内及び本土における緊密な人的ネットワークによって支えられている。本調査では徳之島町井之川集落で継承されている夏目踊りを中心に、主として徳之島民謡の継承に焦点をあて、奄美大島や喜界島等との比較も交えつつ、その詳細を解明したい。②奄美民謡は時代により歌唱スタイルが変化する民謡であり、過去の録音を保存することは研究上大変に重要である。今年は民謡研究家・久保けんおの録音資料のうち、昨年度にデジタル化できなかった分をデジタル化し、アーカイブ構築のための基礎作業を進めたい。


②奄美大島大和村における地域資源果樹の利用に関する学際的研究

担当教員
香西直子(農学系)、兼城糸絵(法文学系)

プロジェクト概要
スモモ(「花螺李」)栽培は大和村において重要な果樹産業として位置づけられ、生業の一つとして定着している。その理由を自然科学的アプローチと人文科学的アプローチにより探る。具体的には、①大和村の近代以降の生業展開の歴史におけるスモモ栽培の位置付けや人々の生活とスモモの関係性について文献調査・聞き取り調査を中心に検討する。②「花螺李」は鹿児島県以外では栽培されず、地域資源果樹として非常に価値が高い一方で、収量が不安定であるという問題を抱える。「花螺李」の生育特性を農学的な手法をもとに明らかにし、大和村の果樹立村としての今後の在り方を地域住民とともに検討する。


③地域と現代文化との関わりを発掘・検証しその可能性を探究するプロジェクト

担当教員
太田純貴(法文学系)、菅野康太(法文学系)、農中 至(法文学系)、清水 香(教育学系)

プロジェクト概要
アート・デザイン・イラスト・ダンスを焦点に、鹿児島における現代文化の展開を発掘し、その可能性や射程を検討する。そのために、他地域(特に京都)の事例を補助線とした、ワークショップを複数回開催する。登壇者は、鹿児島で活躍するデザイナーとイラストレーターとダンサーという実践者、鹿児島に加え京都やベルギーを対象とする研究者である。別言すれば、本プロジェクトは、実践者と研究者という異なる立場からの見解を複数の水準で交差させることで、鹿児島という地域と現代文化の関係性や可能性を重層的に解明することを試みるものである。それは、地域と現代文化の関わりの実証的な解明、現代文化発信の場としての鹿児島大学の地位の向上、地域の文化を多角的に把握できる人材の育成といった成果につながるだろう。

イベント
トークイベント「ダンスと地域とまちづくり」を開催します(11/29)
トークイベント「デザイン×地域×アート」を開催します(12/6)
トークイベント「イラストとアートから考える地域と多文化主義」を開催します(12/13)

2.本学および地域が所蔵する歴史的・文化的資源の地域への還元

①旧城下町鹿児島「博学連携」プロジェクト2024

担当教員
小林 善仁(法文学系)、南 直子(法文学系)、永迫俊郎(教育学系)

プロジェクト概要
鹿児島の歴史や観光に関する取組みは、良くも悪くも「幕末・維新期の偉人の頼み」であり、観光や郷土教育・地域学習、博物館などでの社会教育の面でこうした傾向が顕著である。このような地域課題を解決するため、幕末・維新期の人物の活躍の舞台であった城下町をはじめ、近代以降の鹿児島市街地の実態を解明することは、地域の歴史・地理・文化の更なる理解と活用に繋がる。本プロジェクトは鹿児島市街地を対象地域に設定し、「城跡」「寺跡」「繁華街」「郊外」の四つのテーマを数年がかりで地元の博物館と連携して調査・研究し、歴史的・地理的・文化的情報の収集とその活用方法の検討を行う。


②沖永良部における島妻慣行と女子教育の伝統:奄美群島及び沖縄離島との比較研究

担当教員
中谷純江(総合教育学系)、中嶋晋平(法文学部)、先田光演(えらぶ郷土研究会)、桂 弘一(和泊町議会)

プロジェクト概要
琉球支配の時代から薩摩藩直轄統治の時代を経て明治にいたるまで、エラブ社会の発展に尽力した指導者の多くが、琉球王家や薩摩藩から派遣された役人と島の女性との通婚から生まれた子孫であることはよく知られており、郷土史家により家譜や人物伝の調査が行われてきた。しかし、地位上昇の起点となった島妻本人については、ほとんど記録が残されていない。本プロジェクトでは沖永良部島の島妻慣行や女子教育の伝統について調査を行う。個々の女性ライフヒストリーや島妻に関する「語り」をインタビュー調査であつめるとともに、女子教育の伝統について統計資料や文書から明らかにし、奄美群島の他の島や沖縄県の多良間島と比較を行う。


③鹿屋における〈水の記憶〉を未来に―水資源との豊かな共生を目指して―

担当教員 
難波美芸(総合教育学系)、伴野文亮(法文学部)、川西基博(教育学系)

プロジェクト概要
本プロジェクトは、以下3つのアプローチのもとに展開する。①肝属川流域住民へのインタビューによる食文化や水利の民俗知の収集と国内外の他地域における事例との比較研究。②笠之原開発資料館所蔵の歴史資料の保存と設立者である安藤一夫氏とそのご家族へのインタビューによる戦後の笠之原開発をめぐるライフヒストリーの収集。③肝属川流域における植生の構造や外来生物の定着状況の把握。以上の研究から得られる成果は、報告書を作成して社会に発信するほか、地域住民および鹿児島大学生を対象にした成果報告会を開催し、地域住民や学生らと共有する。

3.地域的課題把握とその解決に向けた取組み

①奄美群島の経済・社会課題解決に向けた歴史資料利活用プロジェクト

担当教員
澤田 成章(法文学系)、伴野文亮(法文学部)、日高 優介(法文学部)、鈴木 優作(法文学部)、金子 満(法文学系)、安藤良祐(法文学系)、三浦 壮(法文学系)

プロジェクト概要
本プロジェクトは、経済・社会の経路依存性を背景として、奄美群島の抱える現代的課題に対して歴史的背景を整理することを通じたアプローチで解決を図る。A面「奄美群島の歴史に関する重要資料の整理」:弓削正己氏寄贈資料の整理作業。B面「すでに明らかとなっている地域課題の歴史的背景の探究」:奄美群島のレジリエントな食料供給体制構築に向けたボトルネックの探究等。A面とB面はそれぞれが独立して進行可能なプロジェクトでもあるが、A面で整理された資料をB面に活用することでそれぞれが相互に補完し合う形にもなっている。これらの成果は地域シンポジウムとして沖永良部島に還元する。


②鹿児島の地域づくりに公民館が果たした役割の歴史的検証と現代への継承・発展ー鹿児島県日置市を事例にー

担当教員
酒井佑輔(法文学系)、農中 至(法文学系)

プロジェクト概要
本県では「経済自立化運動」(1952-1962)「農村三作運動」(1963-1967)「農村振興運動」(1977-1992)「新・農村振興運動」(1993-)等の地域づくりに向けた政策が歴史的に取り組まれてきた。これらの活動基盤となったが地域の条例・自治公民館である。しかしながら、こうした政策の歴史的変遷やその政策の末端にいた地域住民の活動実態、現代の地域社会へ何が継承されたのか等の多くが未検証である。そこで、本研究では上記政策に伴って多くの実践蓄積が確認されている日置市の旧吹上町に焦点をあて、上記活動の歴史的変遷やその実態を可視化する。くわえて、研究成果を本学学生らとともに地域へと還元することで今後の地域づくり政策につなげる。


③与論島からの「移民」についてのオーラルヒストリー研究:森崎和江『与論を出た民の歴史』の「その後」

担当教員
藤村一郎(総合教育学系)、酒井佑輔(法文学系)

プロジェクト概要
本研究は戦中期以降に与論島より他地域へ転出した「移民」コミュニティと島に残ったコミュニティとの双方を対象とし、オーラルヒストリーの手法を通じて『与論から出た民の歴史』の「その後」を解明しようとするものである。「その後」とは、戦後思想の軌跡として注目される雑誌『サークル村』の中心人物であった森崎和江(1927-2022)や上野英信(1923-1987)らによる先行する調査が存在するからである.彼らの議論を参照しながら、鹿児島の「移民」の歴史のうちにポスト・コロニアル・スタディーズやジェンダー、さらには「グローバル・コミュニティ」の視点を導入し、実証的かつ理論的に考察を試みるものである。


④シマ社会の新たな知の循環に向けた奄美の集合的記憶形成に資する字誌の利活用

担当教員
農中 至(法文学系)、高梨 修(「鹿児島の近現代」教育研究センター)、小栗有子(法文学系)

プロジェクト概要
沖縄島の研究では注目されることの多い、住民の基層組織の記憶継承・保存・伝達にかかわる字誌(奄美の場合は各集落の基層単位である「シマ社会史」と考えてよい。)であるが、奄美群島の研究においてこれまでに体系的な分析・検討がなされてきたとはいえない。本プロジェクトでは、沖縄群島・先島地域とは異なる奄美群島固有の字誌づくりの成果物としての字誌(戦後に発行されたものを中心とする。)に注目し、それらの各島における分布状況を把握することを第一の課題とし、その成果物の目録化を目指す。その上で、それらの内容分析に基づく地域学習プログラムの開発を目指し、既存の成人学習グループを中心に字誌の現代的な利活用の方向性と可能性を探る。

4.教育・地域マネジメント人材育成プログラムの開発・推進

①地域に生きる、歴史を生きる:高大生の歴史実践と協働型価値創造

担当教員
石田智子(法文学系)、伴野文亮(法文学部)、中嶋晋平(法文学部)、兼城糸絵(法文学系)、松井敏也(筑波大学)、村野正景(静岡大学)

プロジェクト概要
地域社会と地域資源(文化資源・自然資源)の未来のありかたについて、高校生・大学生の実践活動を通して考えることがプロジェクトの目的である。①指宿高等学校、②古仁屋高等学校、③鹿児島大学の学生たちの活動の支援を通じて、地域資源の発見・記録・保存を行い、活用にむけた取り組みを実践する。①~③の活動内容や工夫を共有するために、④奄美大島瀬戸内町での合同巡検を高大連携形式で実施し、地域資源の新たな価値付けに協働で取り組む。①~④の活動成果を一般社会と共有することを目的として⑤成果報告会を開催し、地域資源の記録・保存・活用の意義と鹿児島における展開可能性についてともに考える場を設定する。

イベント
高大連携で奄美大島合同巡検を実施しました(9/21-23)


②「種子島研究」の探索とアーカイブ化による教材および教育方法の開発

担当教員
出口英樹(総合教育学系)、伊藤奈賀子(総合教育学系)、日髙優介(法文学部)、鈴木優作(法文学部)

プロジェクト概要
鹿児島を代表する民俗学者である下野敏見が創設に携わった鹿児島県立種子島高等学校郷土研究部は、地域についての詳細な民俗学的・歴史的調査の成果を部誌「種子島研究」として発表した。本プロジェクトはこれに焦点をあて、①「種子島研究」についての追跡調査とアーカイブ化、② ①を活用した高等教育における地域教育の方法論の検討と教材の開発、③ ①および②を踏まえて郷土資料を用いた初等・中等教育における地域教育の方法論の検討と教材開発、以上の3点に重点を置く。これらの取り組みについて、高等教育の観点から学生が過去/現在の地域を理解するのみならず、初等・中等教育の観点から児童・生徒が地域を理解(地域学習)することを試みる。そのような観点から、②および③のうち初等・中等教育における教育実践については大学生(鹿児島大学の学生)の補助的関与を予定している。


③島嶼の伝統野菜の維持・保存と教育への活用~伝統野菜と郷土の食文化を復活させる食育プログラムを通して~

担当教員
一谷勝之(農学系)、小栗有子(法文学系)、中野八伯(教育学系)、山口幸彦(教育学系)

プロジェクト概要
研究代表者は植物育種学分野の教員 一谷であるが、本プロジェクトを主体的に取り組むのは中野である。中野の活動はマスメディアに取材されることが多く、鹿児島大学による地域貢献として特筆される。また、伝統野菜、特にダイコンやスイカなどの他殖性作物は花粉混じりの危険から多数の系統を大学内で扱うのは困難であるが、中野が構築した伝統野菜の各原産地の地元の学校で維持する方法は育種学的にも理にかなっており、後述のように食育にも貢献する点で画期的である。申請代表者は教員に限定されるため、一谷が代表を務める。本申請は、中野が保存している島嶼地域の多様な遺伝資源である伝統野菜を活用し、下記の方法で食育を発展させるとともにそれぞれの島嶼の地域文化、食と生活ひいては島嶼農業の活性化に寄与するものである。他の教員はそれぞれの研究分野の特性を生かし、中野の取組に協力、助言する。