令和7年度採択地域マネジメント教育研究プロジェクト一覧

令和7年度において進行中の地域マネジメント教育研究プロジェクトを、4つの柱ごとにご紹介します。

1.地域的特性を踏まえた新たな地域の文化的創生に関する取組み
・地域の文化の可能性を伝統工芸・アート・イラスト・食・本を焦点に探索するプロジェクト
・食育教育プログラムを通した伝統野菜の里帰りと地域振興

2.本学および地域が所蔵する歴史的・文化的資源の地域への還元
・鹿屋における生態と記憶の交差点としての地域資源:生態系と生活史を架橋する地域学的アプローチ
・近代沖永良部における階層制と双系制:墓と屋号と婚姻関係による社会構造の解明
・戦前期、在校生・同窓生の視座にたった日常史・社会史・文化史的アプローチによる鹿児島の学校文化の解明
・垂水の戦争の記録と活用:地域社会との価値共創

3.地域的課題把握とその解決に向けた取組み
・与論島を出た女たちと家族の歴史ー鹿児島与論会、旧田代町盤山、大牟田・荒尾
・「ケアする近接性」の創出に向けた地域内価値循環システムの構築
―薩摩川内市におけるケア・ポイント制度の実証的研究―

4.教育・地域マネジメント人材育成プログラムの開発・推進
・鹿児島県における高校「総合的な探究の時間」指導支援プロジェクト
・鹿児島発の国際平和教育モデルの構築:世代・立場・国を越えた連携を通じて

1.地域的特性を踏まえた新たな地域の文化的創生に関する取組み

①地域の文化の可能性を伝統工芸・アート・イラスト・食・本を焦点に探索するプロジェクト

担当教員
太田 純貴(法文学部)、農中 至(法文学部)、秋吉 康晴(法文学部)、宇佐美 達朗(法文学部)、菅野 康太(法文学部)、清水 香(教育学部)

プロジェクトの概要
伝統工芸・アート・イラスト・食・本を焦点に、鹿児島における取り組みを発掘し、その可能性や射程を検討する。そのために、トークイベントを4回開催する。登壇者は、鹿児島で活躍する染色家・イラストレーター・コミュニティデザイナー・地元企業関係者、および東京と京都を拠点とする研究者である。別言すれば、本プロジェクトは、実践者と研究者という異なる立場・地域の見解を複数の水準で交差させ、鹿児島の文化的事例やその可能性を多角的に解明することを試みるものである。それは、地域の事例を掘り下げて発信できる研究・教育機関としての鹿児島大学の地位の向上、地域の取り組みを多角的に把握・発信できる人材の育成という成果につながるだろう。


②食育教育プログラムを通した伝統野菜の里帰りと地域振興

担当教員
志水 勝好(農学部)、酒井 佑輔(法文学部)、一谷 勝之(農学部)、中野 八伯(教育学部 技術専門職員)、浅野 陽樹(教育学部)、龍野 巳代(教育学部)

プロジェクト概要
伝統野菜汎用品種に取って代わられ,農家で栽培されることはほとんど無く、地域の高齢者が自己消費用に栽培されているのが現状であり、高齢者が栽培をやめれば絶滅する危機にある。それぞれの地域でその知己の伝統野菜を維持、引き継いでいく方法として現地の地元の学校で教育をかねて維持する方法を思いつき現在普及を進めている。後述のように食育にも貢献する点で画期的である。本申請は、維持・保存している島嶼地域の多様な遺伝資源である伝統野菜を活用し、下記の方法で食育を発展させるとともにそれぞれの島嶼の地域文化、食と生活ひいては島嶼農業の活性化に寄与するものである。

2.本学および地域が所蔵する歴史的・文化的資源の地域への還元

①鹿屋における生態と記憶の交差点としての地域資源:生態系と生活史を架橋する地域学的アプローチ

担当教員
川西 基博(教育学部)、伴野 文亮(近現代センター)、難波 美芸(グローバルセンター)

プロジェクト概要
本プロジェクトは、鹿屋市内の小中高との連携を軸として、地域と共同して以下3つのアプローチのもとに展開する。
①戦後の笠之原開発をめぐるライフヒストリーの収集。
②肝属川流域の川辺の植物を中心とした自然生態系の把握と授業実践法の検討
③高大連携で実施する調査およびプロジェクトの成果をまとめたブックレットの出版。
以上3つのアプローチから、歴史民俗文化と自然資源の存在価値を詳らかにし、教材として活用可能なブックレットの制作を通して、その存在価値を地域内外に発信する。かかる営みを通じて、地域の人びとに対し鹿屋の景観が、単なる自然資源ではなく人びとの暮らしと深く結びついた「文化的景観」であることを再認識する契機を提供する。


②近代沖永良部における階層制と双系制:墓と屋号と婚姻関係による社会構造の解明

担当教員
中谷 純江(グローバルセンター)、永山 修一(近現代センター 客員研究員)、兼城糸絵(法文学部)

プロジェクト概要
これまでの研究から沖永良部には、かなりの力を持つ支配階層が古くから存在したことや双系的親族構造を特徴とすることが明らかになっている。奄美群島の他の島々においては、薩摩藩による黒糖支配の結果、社会の二極分化が進んだことや近代において父系化が強まったことが報告されているのに対し、沖永良部では異なる歴史的展開が生じたと考えれる。異なる展開として、例えば、伝統的支配階層(グスクシュータ)と近代的支配階層(ワドマイシュータ)の間の通婚を通した連帯、共同体の運営や意思決定における支配階層のリーダーシップ、薩摩藩との関係における柔軟性など、他の島には見られないことがなぜエラブでは生じたのか、本研究では、その背景を明らかにすることを試みる。


③戦前期、在校生・同窓生の視座にたった日常史・社会史・文化史的アプローチ による鹿児島の学校文化の解明

担当教員
佐藤 宏之(教育学部)、金井 静香(法文学部)、竹村 茂紀(近現代センター 客員研究員)

プロジェクト概要
ある特定の学校に在学した者同士だけが情報を共有することができる、読者が極めて限定された雑誌メディアである校友会雑誌(生徒自らが執筆し、寄稿し、編集する校内機関誌/学校の日常性の次元での学校文化の具体的な表象)・周年記念誌(学校的アイデンティティ/学校実践(過去・現在における)の正統化)・同窓会誌(同窓会組織が学校組織とともに編集作業を行い、発行する雑誌メディア/在校生・卒業生に「知らせたい」「伝えたい」内容)に、何が載せられ(語られ)、主張されているのかを分析する。とくに、在校生・同窓生の視座にたった日常史・社会・文化史的アプローチによる学校文化の解明に取り組む。


④垂水の戦争の記録と活用:地域社会との価値共創

担当教員
石田 智子(法文学部)、中嶋 晋平(近現代センター)、吉田 明弘(法文学部)、高嶺 光佑(垂水市教育委員会社会教育課)

プロジェクト概要
垂水市を対象に、大学生・高校生・自治体で協働した実践活動を通して、太平洋戦争の記憶と地域社会の関係について考えることがプロジェクトの目的である。①戦争遺跡の調査、②戦争関連資料の目録作成、③聞き取り調査を行い、地域の戦争にかかわる記憶を記録化する。④文化遺産の認知度に関する地域住民向けアンケート調査を実施し、今後の文化財保護の方針を検討する。⑤垂水高等学校の探究活動にも協力する。⑥成果報告会を開催し、①~⑤の活動成果を一般社会と共有することで、地域資源にかかわる住民の主体的活動を促進する契機とする。

3.地域的課題把握とその解決に向けた取組み

①与論島を出た女たちと家族の歴史ー鹿児島与論会、旧田代町盤山、大牟田・荒尾

担当教員
藤村 一郎(共通教育センター)、山田 良介(九州国際大学)、日高 優介(近現代センター)、酒井 祐輔(法文学部)、農中 至(法文学部)

プロジェクト概要
R6年度に引き続き「与論島を出た民の歴史」を発展的に調査・考察する。昨年度の大牟田・荒尾地区ユンヌンチュ・コミュニティの歴史にくわえ、今年度は鹿児島県内錦江町(旧田代町盤山)のユンヌンチュの内地コミュニティの足跡についても同時に追跡する。アプローチ面ではユンヌンチュ・コミュニティの解像度をあげるため、女性の視点(ジェンダー視点)や家族の歴史を重視してより立体的な調査を実施する。昨年度の研究成果を市民へ還元するための公開講座や教育活動に取り組みつつ、学術論文や各種学会での発表も実施する。


②「ケアする近接性」の創出に向けた地域内価値循環システムの構築
―薩摩川内市におけるケア・ポイント制度の実証的研究―

担当教員
金子 満(法文学部)

プロジェクト概要
人口減少が進む薩摩川内市において、住民が主体となる「ケアのコミュニティ」形成を目指す。本プロジェクトでは、住民間のケア活動を可視化し促進するための「ケア・ポイント制度」を試験導入する。まず、住民参加型ワークショップで、ケアのニーズや提供可能な活動を「タスク」として共に定義する。その後、タスク実施に応じてポイントを付与・交換できる仕組みを試行し、住民間の新たな関係性(関係的近接)の創出を促す。この実践を通じ、どのようなケア活動が地域の課題解決に繋がり、コミュニティの醸成に寄与するかを分析し、将来のデジタル・プラットフォーム開発の基礎的知見とする。

4.教育・地域マネジメント人材育成プログラムの開発・推進

①鹿児島県における高校「総合的な探究の時間」指導支援プロジェクト

担当教員
小林 元気(中等・高等教育接続センター)、早﨑 綾(中等・高等教育接続センター)
、倉元 賢一(教師教育開発センター)、杉山 大幹(教師教育開発センター)、祁 白麗(教育学部)、伊藤 奈賀子(高等教育研究開発センター)、出口 英樹(高等教育研究開発センター)、日髙 優介(近現代センター)

プロジェクト概要
本プロジェクトは、鹿児島県内の高校教員を対象に、「総合的な探究の時間」における指導力向上と授業の質的改善を目的とする。多くの教員が専門的な指導法を学ぶ機会がなかったという現状の課題に対応するものである。
主な活動は二つである。第一に、鹿児島の歴史・文化・自然・社会課題など、地域の特性を活かした探究活動を設計・実践するための指導マニュアルを開発し、県内高校へ配布する。第二に、マニュアルの内容に基づいた指導法や先進事例を共有するオンライン講習会を開催し、多忙な教員が場所を選ばず参加できる研修機会を提供する。
これらの活動を通じて教員の指導不安を解消し、生徒が自らの地域への理解を深め、主体的に課題解決に取り組む力を育成する基盤を築く。


②鹿児島発の国際平和教育モデルの構築:世代・立場・国を越えた連携を通じて

担当教員
加藤 慧(グローバルセンター)、中嶋 晋平(近現代センター)、中谷 純江(グローバルセンター)

プロジェクト概要
鹿屋市は日本有数の特攻隊出撃基地を有した過去があり、多くの若者の命が失われてきた。その背景から市は現在、平和の大切さを語り継ぐ市内ガイドの育成に励んでいる。
本プロジェクトは、鹿屋市の小中高生が英語でガイドを行う新たな取り組みを支援するものである。まず、鹿大生がChatGPT等のAI活用を含めた児童生徒の英語ガイドの原稿作成を支援する。その後鹿大生とハワイ大生で鹿屋市を訪れ、児童生徒に英語ガイドの実践機会を提供し、鹿大生とハワイ大生、児童生徒の三者による国際交流を展開する。訪問後は鹿大生が児童生徒らと連携し、鹿屋市平和ガイド事業を紹介する日英パンフレットを作る。
以上の活動を通じて、若年層国際平和ガイド育成、AIを活用した積極的な国際交流推進、大学教育の地域社会還元の三種の活動を統合した革新的な国際平和教育モデルを構築する